ここ最近の夏の暑さは、昔とは比べものにならないほど過酷です。エアコンがなければ熱中症になりかねない日々ですが、一方で、昔の人たちは電気も冷房もない中で、どのように涼をとっていたのでしょうか?
今回は、昭和の風景を思い浮かべながら、昔ながらの「涼み方」に目を向けてみたいと思います。先人たちの知恵を、現代の暮らしにも取り入れることで、体にも心にもやさしい夏の過ごし方が見えてくるかもしれません。
1. うち水:地面に撒くだけで、ひんやり空気
玄関先や庭先、縁側に「うち水」をする風景は、かつては夏の風物詩でした。打ち水は、ただ地面を濡らすだけではありません。水が蒸発する時に地面の熱を奪い、気温を下げるという自然の仕組みを利用した“エコな涼み方”なのです。
コツは、日が高くなる前や夕方の風が出てくる時間帯に行うこと。朝の涼しいうちや夕暮れ時に打ち水をすれば、周囲の空気がふんわりと冷えて、心なしか風まで心地よく感じられます。ベランダやアスファルトにも応用できますので、現代のマンション暮らしにも取り入れやすい知恵です。
2. すだれ・よしず:光と風を操る天然のカーテン
日本の夏の家に欠かせなかったのが、「すだれ」や「よしず」です。直射日光を遮りながら、風は通すという優れもの。エアコンをつける前から、家の中に“涼”を取り込むための工夫でした。
特に「よしず」は、窓の外に立てかけるだけで室内の温度上昇を抑え、見た目にも涼やか。現代のインテリアにも合うデザインのものも多く、夏限定の模様替えとして楽しめます。エコでおしゃれな日除け、今年の夏こそ試してみては?
3. 風鈴:音で感じる涼しさ
風が吹いたときに「チリンチリン」と鳴る風鈴の音には、不思議と涼を感じる力があります。実際に、音の高低や響きによって脳が“涼しさ”を錯覚する効果があるといわれています。
ガラスの風鈴、鉄製の風鈴、南部風鈴など、音色の違いを楽しむのもまた一興。軒下やベランダに吊るせば、ふとした風が通り抜けたときに心地よい音が鳴り、暑さの中でもほっとひと息つける瞬間が生まれます。
4. 夕涼み:一日の終わりに風を感じる
「夕涼み」は、かつての夏の日常に欠かせない風習でした。家の前に縁台を出して、うちわを片手に、夕暮れの風を感じながら家族や近所の人たちと語らう。そんな風景が、日本の夏の原風景として今も多くの人の記憶に残っています。
現代では、縁台の代わりにベランダやウッドデッキ、あるいは公園のベンチでも。夕方、スマホを置いて、ゆっくりと風にあたる時間を持つことで、心身ともにクールダウンできます。忙しい日常の中で、あえて“何もしない時間”を味わうのも、夏の養生法かもしれません。
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5. うちわ・扇子:手のひらで生まれる風
エアコン全盛の今こそ、「うちわ」や「扇子」の出番です。自分であおぐ風は、自分のリズムに合わせられるのが魅力。汗をかいたあとに、そっとあおげば自然な風が心地よく、体もゆっくりと涼んでくれます。
また、現代では紙製のものから竹細工の伝統工芸品まで、デザイン性の高いうちわが多数あります。お気に入りの一枚を鞄にしのばせておくだけで、ちょっとした“涼しげな所作”にもつながります。
6. 浴衣:風をはらむ夏の装い
夏祭りや花火大会の定番、浴衣。実はこの衣類そのものにも、涼を感じる工夫が凝らされています。薄手の木綿や麻を使い、風が通りやすく、肌にまとわりつかないように仕立てられた浴衣は、まさに「夏を涼しく過ごす衣」。
自宅での夕涼みや近所への買い物などにも、気軽に浴衣を着てみるのはいかがでしょうか。現代風のアレンジや、洗える浴衣も増えていますので、気負わずに“涼しげなおしゃれ”を楽しめます。
7. つめたくて、やさしい食卓
涼をとる工夫は、住まいや装いだけではありません。昔ながらの食卓にも、夏を乗り切る知恵が詰まっています。たとえば、冷やしそうめんや冷奴、ところてん。火を使わず、のどごしのよい料理は、体を内側から冷やし、消化も助けてくれます。
竹の器や氷を浮かべた器を使うと、目にも涼しさが伝わり、暑さの中でも食欲が戻ってくるから不思議です。旬の夏野菜や梅干しなど、体の熱を逃がしてくれる食材を意識的に取り入れるのも、夏の先人の知恵のひとつです。
まとめ:涼は“つくる”ものから“感じる”ものへ
冷房をつければ涼しくなる時代。でも、それだけではどこか「涼しさ」が物足りないと感じるのは、五感で感じる“昔の涼み方”が持っていた豊かさに気づいたからかもしれません。
うち水で風を呼び、すだれで陽をさえぎり、風鈴の音に耳を澄まし、浴衣で風をまとう…。そうした“ちいさな涼”を積み重ねていくことが、心と体にやさしい夏の暮らしをつくる鍵になりそうです。
この夏は、少しだけ立ち止まって、先人の知恵に学ぶ涼の取り方を暮らしに取り入れてみませんか?
風の音や夕暮れの空の色が、いつもより涼やかに感じられるかもしれません。
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